表題

再帰的評価のための rec 特殊フォーム

著者

Mirko Luedde <Mirko.Luedde@SAP.com>

状態

この SRFI は現在「確定」の状態である。SRFI の各状態の説明については ここ を参照せよ。 この SRFI に関する議論については メーリングリストのアーカイブ を参照せよ。

概要

rec という特殊フォームの実装について提案する。 このフォームは [Clinger1985] で定義されている recnamed-lambda を結合して一般化したものである。 このフォームを使うと、 自己参照を行う式を、簡単に非命令的に構築することができる。 その重要な用途として、 A. Church の lambda フォームを拡張し、 再帰的手続きを直接的に定義することができるようになる。 このとき、 letletrec のような別の特殊フォームを使う必要はないし、 H. B. Curry のコンビネータのような高度な式を使う必要もない。 また、define とは異なり、 外部環境に変数束縛を導入する必要もない。

論拠

概論

[KCR1998] で定義されている Scheme プログラミング言語には、次のような際立った特徴がある。
  1. 構文が単純である。
  2. 再帰的定義を推奨している。たとえば、末尾再帰のメモリ効率のよい実装を保証している。
  3. 非命令的プログラミングをサポートしている。
そうは言うものの、 Scheme は、次のような性質をもつ、再帰的評価のための構文を提供していない。
  1. 可能な限り単純で直観的で数学的記法に近いこと。
  2. 再帰を汎用的に記述できること。
  3. 非命令的であること。

問題 1

階乗を計算する関数を考えてみよう。 数学的には次のように表現することができる。
  (F : N |--> 1,            if N = 0;
              N * F(N - 1), otherwise).
この表現は項 (term) であって、定義や命題ではない。

次に、Scheme で階乗関数を表現するための方法を考えてみる。

解法 1

この問題は、すでに [Clinger1985]named-lambda フォームによって解決されている。 それよりも早い時期に、 Kent Dybvig の Chez Scheme では、 これとは少し異なる構文により解決されている。 この特殊フォームを使えば、 階乗関数を次のように簡単に記述できる。
(named-lambda (F N)
              (if (zero? N) 1
                (* N (F (- N 1)))))
この式は関数項であり、階乗が適当な簡潔さで記述されている。

しかし、named-lambda は後のバージョンの Scheme Report からは削除されている。 また、Chez Scheme (6.0a) や MIT Scheme (7.7.0) のような最新の処理系にも存在しない (MIT Scheme には named-lambda があるが、別の意味論を持つフォームとなっている)。

問題 2

1 を連続して出力するストリームは次のようにして定義できる。
(define S (cons 1 (delay S)))
再帰的なオブジェクトを定義するためには、 階乗の場合と同様に、外部環境に束縛された変数が必要になる。 これを改善するために letletrec を使うと、階乗の場合と同じような問題が発生する。

解法 2

このような自己参照の問題は、 [Clinger1985] で定義されている rec フォームで解決された。 このフォームを使うと、次のように記述することができる。
(rec S (cons 1 (delay S)))
この式は非命令的であり、外部の変数束縛を必要としない。

このフォームも後のバージョンの Scheme Report から削除されている。 また、我々の観点では、このフォームだけでは、「問題 1」を解決することはできない。 「問題 1」に対する解法は次のようになるだろう。

(rec F
     (lambda (N)
       (if (zero? N) 1
	 (* N (F (- N 1))))))
しかしやはり、数学的記法のように、十分に簡潔でも直観的でもない。

提案

以上の理由から、 named-lambdarec の利点を統合して一般化した rec 特殊フォームを提案する。 この特殊フォームを使うと、階乗関数は次のように記述できる。
(rec (F N)
     (if (zero? N) 1
       (* N (F (- N 1)))))

仕様

文法

[KCR1998] に次の文法生成規則を追加する (ここでは非終端記号を踏襲している)。
  1. <derived expression> --> <rec expression>
  2. <rec expression> --> (rec <variable> <expression>)
  3. <rec expression> --> (rec (<variable>+) <body>)

意味論

[KCR1998] のように define-syntax, syntax-rules, letrec, lambda を提供している Scheme 処理系では、 以下のようにして rec を実装できるだろう。
(define-syntax rec
  (syntax-rules ()
    ((rec (NAME . VARIABLES) . BODY)
     (letrec ( (NAME (lambda VARIABLES . BODY)) ) NAME))
    ((rec NAME EXPRESSION)
     (letrec ( (NAME EXPRESSION) ) NAME))))

テスト

次のセッションは、 rec が階乗関数の末尾再帰による実装を許していることを示している。
> (define F (rec (F N)
		((rec (G K L)
		   (if (zero? K) L
		     (G (- K 1) (* K L)))) N 1)))
> F
#<procedure>
> (F 0)
1
> (F 10)
3628800

謝辞

Al Petrofsky には、最終的な決定に貢献してくれたことを感謝する。 Hal Abelson, Chris Hanson, およびその他の方々の貢献に感謝する。 SRFI フォーラムのメンテナの方々にも、大きく感謝する。

参考文献

著作権

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著者: Mirko Luedde
編集者: Francisco Solsona